空中で静止した箒の後ろ側で足をぶらつかせながら横座る籽玉が、買い物の間にすっかり覚めた目を自分たちより少し高い位置へと向けてぱちくりと瞬かせる。
「あれ、マシシのだよね」
「ああ」
柄の上に立つ琅玕が、空を走り回る無人の絨毯を目で追いつつ頷いた。籽玉は市場で買い与えられた食べかけの大きな肉まんをひと齧りして、もくもくと口を動かしながら続ける。
「暴走してるね」
「……ああ」
「どうやら市場の上をずっと旋回してるみたいだね、凄い速さで。 大体何があったかわかるけど」
籽玉は絨毯の無人運転に至るまでの経緯を一部始終頭の中で想像してくすくすと笑った。黙ってコクリと琅玕が頷く。
「琅玕、追いつける?」
「勿論」
琅玕は短く返し、籽玉が四分の一ほど手元に残っていた肉まんを口に押し込んできちんと飲み込むまで待った。両手で自分が座る左右の柄を握るのを見届け、箒の前側に出した方の脚に少し力を込める。
「いくよ」
急発進した箒が前進しながら高度を上げ、絨毯との距離を急速に詰めていく。難なく追いつき、決まった位置を大きく旋回する絨毯の隣をぴったり併走し始めた。籽玉は風で暴れる髪を片手で鬱陶しそうに抑える。
「ここからどうするかだね……ぼくが乗れたら話が早いんだけど」
「……それしかないかな」
箒を走らせながら少し思案した琅玕の呟きに、籽玉が眉根を寄せて顔を向けた。ごうごうと耳を打つ風切り音が耳障りで顔を顰める。
「飛び移るなんてぼく無理だよ?」
ちらりと琅玕が籽玉を見下ろし、顔を絨毯の方へ戻したかと思うと、おもむろに片手で籽玉の襟首を掴んだ。