「「少なっ」」
「~~~ッいい加減に! しろッッ!!」
小さな革袋を覗き込んで遠慮なく発せられた二人分の声。アスカは擽りの余韻が冷めぬ涙目のまま体の上から籽玉を退かし、マシシの手から革袋を引ったくってブレザーの内ポケットに仕舞った。
「金は部屋に置いてんの! 折角エティさんに貰った給料無駄遣いしたくないから!!」
散らばった札と硬貨を拾って財布に収め、起き上がってコートを脱ぎ、ばさばさと上下させてくっ付いた草や土を払う。
「エティから日に幾ら貰ってるんだい?」
「籽玉お前……ほんと突っ込んだ事聞くなぁ……」
遠慮のない質問に短く返すと、籽玉が大袈裟に目を見張った。
「低廉! アスカはそんなに安くていいの?」
「ただでさえできる事少ないのに飯と部屋付きだし、あんまり要らないって言ってるんだよ」
「別に差額分取っといてそうだけどな。 あの人あれで結構金の事きっちりしてるし」
「そしてアスカが独り立ちする時にそっとそれを取り出して手渡すと。 お前が稼いだ金だ、無駄遣いするんじゃないぞ、って。 泣かせるねえ」
籽玉がエティの口真似らしき事をしながら出てもいない涙を袖口で拭った。
「独り立ちって何だよ……エティさんどんだけお母さんなんだよ」
「……オカアサン? って何だい?」
「え?」
聴きなれない言葉を反芻して首を傾げる籽玉にアスカは瞬き、マシシの方を伺う。
「……人間は母親と父親から生まれてくんだろ」
「对! そういえばそうだったっけね、もう人間になんて長い事会っていないものだから忘れていたよ」
視線に気づいたマシシが短く説明し、籽玉が大きく二度頷いた。
さらりと吐き出された台詞を聞き咎めたアスカが片手を挙げる。
「ちょっと待て。 今の、まるでお前らが人間じゃないみたいに聞こえたんだけど」
マシシと籽玉はすっと真顔になって互いの顔を見合わせ、同時にゆっくりと背後の古書店を振り向いた。
「……どうする? 言っちゃう?」
「いーんじゃねーの? 遅かれ早かれ……なあ?」
「だよねえ」
伏せるつもりがあるのかないのか、アスカに聞こえる声量で話し合ったかと思うと、籽玉がひとつ咳払いして向き直る。
「察しの通り、ぼくたちは人間じゃないんだよね」