「点かねーって?」
マシシの問いに頷くアスカの手元では青白い光が煌々と灯っている。元の世界に戻って早速慣れきった仕草でランプをつけようと手を翳したのだが、どんなに魔力を注いでもちかりともしなかった。
それを報告してもさして驚いた様子もなく、マシシは灯りを消したランプを受け取る。
「下手なだけじゃないの? ふふっ、水道みたいにさ」
水を被った一件を未だに思い出し笑いしながら揶揄する籽玉にアスカは首を振って否定した。
「何回も試したよ。 それに俺、ランプつけるの上手くなったはずだし……灯りも揺れないで安定するようになったんだぜ?」
「ランプをつけるの「だけは」が抜けているよ?、アスカ?」
「うるさいっ」
点検するようにランプを調べていたマシシが手を止めて宙に仕舞う。
「ランプに問題はなし……と。 ま、そゆ事だろォな」
「どゆ事?」
「あーあ、にしても腹減ったな。 暇だろ? 市場にナンか食いいこォぜ」
アスカの質問には答えず一人納得したように頷き、頭の後ろで手を組むマシシに籽玉も袖を振って賛同する。
「いいねー点心飲茶! 勿論ここは」
「「アスカの奢りで」」
「はっ!?」
二人は綺麗に言葉を重ねると共にくるりと振り向き、思わず後退するアスカヘじりじり距離を詰めてくる。
「おらっ財布出せ!」
マシシの声と同時に二人が飛び掛かった。草の上に倒されたアスカが押し返そうともがくが、二対一では抵抗らしい抵抗にもならずに服の上から体を弄られ、闇雲に大声を上げる。
「ちょ、やめ、ごっ……強盗ーーー!! 待って籽玉どこ触っ……ふっ……だぁはははははッくすぐってッ」
目に涙を浮かべて笑いながら身を捩っているうちに、籽玉の手がアスカのスラックスの尻ポケットに差し込まれた財布を探り当てて高く掲げられた。
「発見!!」
「変な財布」
籽玉はぜえぜえと息をつくアスカの腹の上に乗ったまま焦茶色の革の二つ折り財布を開き、小銭入れから硬貨を取り出す。横から覗くマシシが数枚の札を抜き出しぺらぺらと裏表を確かめた。
「この丸いのはお金かい?」
「なんこの紙?」
「こっちの板は何?」
アスカは後ろに肘をついて上体を起こし、籽玉の手で折り曲げようとされていたキャッシュカードごと財布を奪い返す。
「やめ!! ったく……お札も小銭も向こうの金だよ、つい癖で財布持ってただけ」
「エルは?」
「えっ」
腹の上で籽玉が身を乗り出し、隣のマシシ同様わきわきと手を動かしながら、引き攣るアスカに顔を寄せる。
町の郊外に、ぎゃああとけたたましく悲鳴が響き渡った。