:: RM>>07-06




 端的に言えば、ぼくたちの本体は基柱石と呼ばれる魔法の宝石なのさ。
 生まれてから少しずつ年を重ねて、人間で言えば二十歳前後の姿で外見の年齢は止まる。風邪なんかはひくけど、命に関わるような大きな病気なんかもしないし、何事もなければずっと生き続けるよ。
 今まで見た中で一番長寿なのはアスカのところの数え方で言えばおおよそ……そうだね、一千歳以上かな。
 人間なら死ぬような大きな外傷を受けると、体はなくなって基柱石の姿に戻る。そこへ長い時間をかけて魔力が溜まっていくと、また体を得ることができる。宝石にかかっている魔法で、ぼくたちの体は維持されているってわけ。
 形だけ機能する生殖器は持っているけれど、繁殖能力はない。生まれる時は基柱石からはじめて人の形になる時。
 だから、ぼくたちには育ての親はいたりしても基本的に母親や父親はいないのさ。



 語りきった籽玉は、ふう、とひとつ息を吐いた。

 「わかった?」
 「わ、わかんねぇよ! つまりお前らは皆不老不死の存在ってことか? ゆっくり歳取る種族だから、町の人みんなそうだから、若い子供しかいないってことか?」
 「なんだ、大方わかってるじゃないか。 そうだと思ってくれて差し支えないよ」

 頷いて笑う籽玉の言葉を少しずつ飲み下していくアスカの脳裏にはエティの顔が浮かぶ。

 「エティさんもそうなのか? 琅玕や、シイラも?」
 「そうだよ? 星ノ宮に住んでいる人はみんなそうさ。 ちなみにぼくと琅玕の基柱石は翡翠。 マシシは何だっけ」
 「……アクアマリン」
 「对啊、あきゅ……あきゅあ……海蓝宝石ね」
 「……ナンでもいーけどよ」

 舌を噛みかける籽玉に、マシシは腕を組みながらため息をついた。
 アスカは籽玉の額に巻かれた飾り紐についた大きな緑の宝石と、マシシの髪飾りやベルトに付いた幾つかの青い宝石をまじまじと見つめる。

 「籽玉のはわかるけど、マシシのきちゅうせき? はどれなんだ?」
 「は?」
 「どれ?って、」

 二人は目を瞬かせてアスカの視線の先を辿り、数瞬おいてようやく意味を理解したのか二人同時に思い切り噴き出した。腹を抱えて声をあげ、思いっきり大笑いする二人にアスカはたじろぐ。

 「な、何だよ、何でそんな笑うんだよ」

 数十秒間笑い続けてようやく治まったらしい籽玉が、今度は演技でなく本当に浮かんだ目尻の涙を拭いながら、もう片方の手で自分の頭の横に下がる宝石を指した。

 「確かにこれも翡翠だけど、違うよ、これはただの飾り! 基柱石は左胸の中にあるから外からは見えないの! あぁもう、アスカって本当面白いんだから」
 「し、知らないんだから仕方ないだろ! 左胸って事は……心臓の代わりに宝石があるとか?」
 「心臓は普通にあるんじゃないっけ?」

 籽玉が隣でようやく息を整え終えたマシシに話を振る。

 「ある。 臓器とか体のつくりは人間と何ら変わんねーよ。 ただ体を維持してる要素に栄養なんかの他に魔力があんだと。 そのおかげで実質的に不老不死ってわけだ」
 「永遠の命、って事か……何だかいよいよ物語の中の話みたいだな」
 「……どんな事でも、永遠に続くなんてありえないけどね」

 誰にでもなくぽつりと呟いた籽玉の表情が冷淡なものに見えて、アスカが何か言おうと口を開きかけたが、笑顔に戻った籽玉が悪戯っぽく重ねて遮る。

 「基柱石砕かれたら死んじゃうよ? 他にも実質的な死はいくつかあるさ。 例えば体が殺されて、石の姿のまま外からの魔力を遮断されて鑑賞用として扱われ続ける。 基柱石はそこらの宝石よりずうっと綺麗だからねえ。 考え方に依ってはこれだって立派な死だと思わないかい? それに何より、一番は乗っ取り……」

 にまにまと笑みながら畳み掛ける籽玉の口を、横から伸びたマシシの手が無遠慮に塞ぐ。

 「ま、とにかくよ。 お前が普通の人間だっつー事は口外しないほうがいいと思うぜ。 黙っとけばバレやしねーだろ。 成長の速度に多少個人差があるおかげで、この町にお前くらいの見た目の奴もいない事もねーからな」
 「何で?」
 「もし基柱石目当ての賊だとでも思われてみ? ひん剥かれて袋叩きに遭って、最後は市場のど真ん中で晒し者かもな」

 衆目の中檻に入って涙ながらに無実を訴え続ける自分の姿を想像し、アスカはぶるりと身を震わせてこくこくと頷いた。

 「基柱石って、そんな狙われるくらい綺麗なのか?」
 「綺麗だよ? 普通の宝石とは輝きが違うもの……」
 「へえ……見てみたいな。 とか言ったら不謹慎なのか」

 何気なく口にしたアスカの言葉に、籽玉とマシシはもう一度顔をつき合わせて古書店を振り向き仰いだ。



<<>>