「うー、さっぶい」
夕刻、暮れた空。少し強めの風が吹いては木々をざわつかせる。アスカはコートのポケットに手を突っ込んで、肩を竦めて身を震わせた。
並んで店の裏手に回りながら、マシシが徐に左手を体の前に出す。小指の細身のリングに付いた石へ白色の眩い光が宿り、さながら懐中電灯のように足元を照らした。
「すげー、それも魔法道具? もしかしてその指環全部そうなのか?」
「まーな」
「へぇ、他のはどんな道具なんだ? 使ってるとこ見たい!」
軽い気持ちで頼むアスカの前に、商売人の目をしたマシシの右手がずいと差し出される。
「見物料取るぞ」
「……ケチ」
アスカが唇を尖らせる横で、指環の光が抜け穴を照らし出した。
「なんこれ、ただの穴じゃねーか」
「あーこの穴開けたのは俺なんだ……。 この先の道を歩いてると、知らない間に元の世界に戻ってるんだよ」
「ほーん……」
マシシはその場に膝を付き、抜け穴の先をしげしげと眺めるように観察する。
「何かわかるのか?」
「ただの道にしか見えねーな。 アスカさぁ、試しにちょっと行って帰って来てみろよ」
「わかった」
言われるままアスカは垣根を抜けて、背中に視線を感じながら少々ぎこちない足取りで路地を歩く。すっかり慣れた感覚と共に景色が移り変わったのを確認し、くるりと踵を返して同じように星ノ宮へと戻る。垣根の穴から覗くマシシが眉根を寄せてくいと首を捻った。
「どうだった?」
「どーもこーも。 ふいっと消えたと思ったらこっち向いてまた出て来たようにしか見えねー。 ……読めないっつー事は行った事ない場所なんだろォけど……ナンも考えないで行ってみるにはリスクが高すぎんだよなァ……。 こりゃ一旦お手上げだな」
マシシは呟きを終え、軽く膝を叩いて立ち上がる。