:: RM>>09-01




 午後三時。昼過ぎには市場から古書店へ戻って来ていたマシシがソファから腰を上げた。

 「ぼちぼちシイラ迎えに行ってくる」
 「お、行ってらっしゃい」

 アスカの歓迎会を兼ねての食事会、という話が浮上したその日に決まった日程が今日である。エティが本日休業とした古書店のリビングには、予定通り、こちらも午前中で仕事を切り上げたという琅玕と、連れられて来た籽玉が寛いでいる。

 「……マシシ、シイラの事苦手って言ってたけど、やっぱそんな事ないんだな」

 マシシが店から出て行った音が聞こえてからアスカが呟き、向かいのソファに座る籽玉が手持ち無沙汰に琅玕の長い後ろ髪を弄っていた手を止めた。

 「ああ、そういえば昔からそう言ってたっけ」
 「そうなのか?」
 「是。 と言っても、あの二人って昔は結構いい感じだったんだけれどね。 いつからかマシシの方がやたらと余所余所しくなってさ、シイラもああいう気質じゃない? 売り言葉に買い言葉で、ここのところしょっちゅうぎすぎすしてるみたいなんだよね」
 「あー……ぎすぎすな」

 アスカは、マシシが先日シイラから怪我の手当を受けていた時の不貞腐れたような態度を思い返して頷いた。

 「喧嘩でもしたとか?」
 「さあ?  訊いたところでどうせマシシは話さないだろうし、 ぼくは別段シイラと親しくないし、詳しい事は知ーらない。 エティはシイラから何か聞いていないのかい?」

 暖炉の傍の揺り椅子で朝からずっと本を読み続けるエティが、籽玉に振られて少し間をあけてから首を横に振った。アスカはそのすぐ後にページを捲る指を眺めながら、果たしてあれで彼は話が聞こえているのだろうかと疑問に思う。

 「ま、関係なんてどう転ぶかわからないものだよ……ふぁああ……」

 袖で口を抑えながら大きく欠伸をした籽玉が、潤んだ目を閉じこてんと首を琅玕の肩に預けた。琅玕は壁の時計を見遣る。

 「籽玉、おれは買出しに行くけど……」
 「ぼく眠たぁい……ここで待ってる」
 「あ、なら俺手伝うよ」

 琅玕の肩から頭を外した籽玉がソファに深く沈み込んで目を閉じた。そっと籽玉の髪を撫でてから立ち上がる琅玕に倣ってアスカも腰を上げる。

 「アスカは今日の主役だろ? 折角の休日だし、休んでいたらいい」
 「や、待ってるだけってのも何か落ち着かないからさ」

 やんわりと制するのに対してアスカが頬を掻きながら苦笑すれば、琅玕は納得したように頷いた。

 「じゃあ、お願いしようか」



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