店の奥からふらりと現れて机上に掌をつく、おおよそ一週間ぶりに見かける顔。
「ようアスカ、付き合えや」
「……マシシ!?」
アスカは驚きに体を跳ねさせ、椅子の背凭れの飾りにがつんと後頭部をぶつけた。開店から一時間ほどカウンターで番をしていたが、彼はおろか客の一人も入店してきた覚えはない。
「いつの間に帰ってきてたんだ!? つ、つか店の中に裏口とかないはずじゃ……俺今日は居眠りもしてないし……」
「ついさっきな。 そんなんどーでもいいからちゃっちゃと立てッ」
カウンターの内側に回り込んで腕を引っ張り上げられ、アスカは椅子から半強制的に立ち上がらされる。
「ちょ、ちょっと待てよ俺は店番が」
「いーのいーの、エティには言ってきたからよ」
「エティさんは何て?」
「アスカ借りるぞっつったら『好きにしろ』だとさ」
がくりと頭を垂れて椅子に戻ろうとするアスカをマシシはぐいぐい引っ張り起こし、掌で一発ばしんと背中を叩く。
「どーせ暇だろ、おらさっさと行くぞ!」
「どこにだよ……。 あーもうわかった、今上着取ってくるから」
アスカは腕からマシシの両手を外させ、唇を尖らせながらカウンター裏の扉を開いた。
ひでーやエティさん、俺を物みたいに扱って。 ……でも、エティさんの所有物になる、ってのも悪くはないかなあ。
若干歪んだ思考で薄ら笑いを浮かべるのと同時に、店の奥から小さくくしゃみの音が響いた。