薄い瞼が持ち上げられて、琥珀色の瞳が左右にゆっくり彷徨った。体を捩ろうとして、足首に走った痛みに息を詰める。
「っ……」
微かな声に気が付いた籽玉が琅玕の首元へと縋り付いた。
「琅玕……!」
「し……ぎょく……? 籽玉、っ痛」
琅玕は起き上がろうと体に力を込め、再度左足首を襲った痛みに声を上げた。自分にしがみ付いたまま肩を震わせる籽玉の髪をそっと撫でてやりながら、首だけ動かして辺りの様子を探る。見慣れた天井に四角い飾り窓。どうやら自室にいるようで、自分は寝台に寝かされてその傍らに籽玉が座り込んでいるようだと理解する。
「大丈夫か?」
覗き込んできたアスカとエティの二人にぱちくりと目を瞬かせた。
「折れてはいないようだが、顔に擦過傷と体に打ち身のほか、左足首を捻挫もしている」
薬箱を閉じながら呟くエティの説明を聞いて側頭部に手を遣ると、額の高さに包帯が巻かれ、頬にガーゼが貼り付けられている事にようやく気が付いた。頭の中をぼんやり霞ませていた霧が徐々に晴れていく。
「……そうか、考え事をしていて……」
箒に立ち乗っての飛行中、不意な強風に煽られて崩れた体勢を持ち直すのが一瞬遅れ、そのまま木へと派手に激突して落下したのだと思い出した。普段ならば体勢を崩す事自体しないはずなのにと己を恥じる。
「二人ともすまない、迷惑をかけ」
「馬鹿!! 琅玕の馬鹿ッ!! そんな、怪我するほどぼくに怒ってるなら、直接言ったらいいじゃない!!」
顔を上げた籽玉が琅玕の言葉を遮り、激昂した様子で怒鳴りつける。撫でていた手をぱちんと振り払われた琅玕は困ったように眉を下げた。
「怒っては……」
「嘘!! ぼくにはわかるの、琅玕だってわかるでしょ!!」
「し、籽玉。 怪我人ボコボコ殴るなって……ぐえっ」
軽く握った両手でべしべしと琅玕の胸を叩き始めた籽玉を止めようと一歩踏み出したアスカの襟首が後ろから強く引かれた。首元へ食い込んだネクタイに呼吸を妨げられながら振り返ると、エティは涼しげな顔のままアスカのシャツからぱっと手を離す。
「仕事が残ってる。 帰るぞ」
「え? 仕事なん、かッッ」
今度は脇腹を力強く抓り上げられてアスカの言葉は強制的に止められる。そこでようやくエティの意図に気が付き、涙目で脇腹を押さえながら双子の方に振り向いた。
「あっ……あ~……そうだ仕事が! 残ってるから俺たち帰るな! またお見舞い来るから、琅玕、お大事に」
「……すまない」
籽玉からの止まない打撃を受けつつ申し訳なさそうに目配せする琅玕に片手を挙げて返し、アスカはエティと共に双子の家を後にした。