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 窓の外で絶えず吹き荒れる強風が木々の間を抜けるたび風音が唸り、時折はガラスを打ってガタガタと揺らしている。アスカは茶葉を蒸らす間にリビングの出窓から外を覗いた。台風のような猛烈な風が、木々を撓らせ暴れ狂っている。

 「ほんと風強いなぁ。 琅玕も大変だよな、こんな日はさ」
 「……」

 エティとマシシの傍にそれぞれカップを置き、序でにソファのテーブルの方へ茶菓子の皿を置きながらアスカが言った。声を掛けられたのは籽玉だったが、彼は無言のまま皿からクッキーを摘んで口に運んだだけだった。

 「箒の上って風あるし、コート着てても寒そうだよなぁ。 ただでさえ琅玕と籽玉の靴って足の甲出てるしさ」
 「…………」
 「……籽玉?」

 反応もせずにただただ無言でクッキーを貪り続ける籽玉の顔をアスカが覗き込むと、吊り目を更に尖らせて宙を睨み、咀嚼する口をへの字に曲げていた。ぎょっとしたアスカが言葉に詰まるのと同時に、マシシが振り向いて暖炉から離れ、二人の向かい側のソファに腰掛ける。用意されたティーカップへ手を伸ばしながら、さも面倒そうに口を開く。

 「ナニお前ら、やっぱ喧嘩してんの? 何年ぶりだよ」
 「喧嘩? こないだから?」
 「……余計な事言わないでくれる」

 誰と目を合わせるでもなく目線をテーブルの上へ投げたままの籽玉の言葉は、マシシの問への肯定を意味しているように聞こえた。アスカは籽玉の感情を押し殺したような無表情を物珍しく思いはすれど、茶化す気にはなれず掛ける言葉を迷う。

 「どーせまたお前がナンか余計な事言ったかしたかで琅玕怒らしたんだろォ? ……てっ」
 「ちょ、マシシ」
 「今回ばかりはぼく悪くないもん!」

 無遠慮に言い放つマシシヘ、籽玉がテーブルの反対側からクッションを投げ付けた。マシシはそれを体の前でばふりと受け止め、睨み付けてくる籽玉を睨め返して、アスカの静止も無視して言葉を続ける。

 「毎回そう言って結局お前が悪いんじゃねーか! お前らが喧嘩するとロクな事になんねーんだからとっとと謝っ……痛てッ」

 クッションをもうひとつ掴んだ籽玉がテーブルを回り込んでマシシの前に立ち、両手で振り上げて何度もぼすぼすと振り下ろす。両腕で顔をガードしていたマシシがしつこい攻撃に耐え兼ね、籽玉の手からクッションを奪い取った。

 「痛いっつの! 八つ当たりすんなよ!!」
 「白目!! もう! 帰る!!」

 マシシが持ったクッションに平手を振り下ろしてから怒鳴り返し、籽玉は普段の倍は乱雑な動作で扉を開け放ち、古書店から出て行ってしまった。

 「どっちがガキだっつの」

 マシシはけっ、と吐き捨てるものの、その表情はどこか罪悪感を感じてはいるようだった。

 「……今のはマシシが悪いって」

 苦笑いするアスカに、エティも本を読みながら小さくひとつ頷いた。うるせぇ、と口を尖らせながらマシシはクッションをふたつアスカの方へ放り投げて返す。
 アスカは受け取ったそれらを傍らに置こうとして、ソファの上に乗っている丸められた布に気が付き、手に取って広げてみた。裏地の付いた薄手の柔い毛織生地の端に手触りのよい毛皮が縫い付けられたそれを少し観察して、籽玉の肩掛けである事を思い出す。

 「忘れ物だ」

 肩掛けを掴んで店の外に駆けるが、寒風吹き荒ぶ店の外には既に籽玉の姿はなかった。小走りに出て行った様子からして、ひょっとしたら外に出るなり走って行ってしまったのかもしれない。だとすれば家まで届ける必要がありそうだが、先日床に組み敷かれたことを思い出すとあまり気は進まなかった。
 それでも軽い口論の後に飛び出した以上籽玉が自分から取りには来づらいだらうし、同じ理由でマシシに届けさせるわけにもいかないだろう。致し方ない。そう納得すると、アスカは自分のコートを取りに一旦古書店の中へ戻って行った。




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