意識の浮上と共に、重たい瞼を無理矢理こじ開ける。
夜の帳が降りる部屋をぼんやり照らす灯りの方へ目だけを向けると、寝惚け気味に半開きだった黒い瞳が確りと開かれた。ベッドの傍に寄せられた椅子に深く腰掛けてうたた寝をするエティの顔を、サイドテーブルに置かれたアスカのランプが優しく照らしている。
どこを動かしても重い節々に顔を顰めながら体を起こす。音を立てまいとした努力も虚しく、微かなベッドの軋みと同時にエティが目を開いた。ああ、もっとよく寝顔が見たかったのに。そう惜しむ気持ちが自分の中へ生まれた事に、アスカは自ら戸惑いを覚える。
「……起きたか。 具合はどうだ」
「めっ……ちゃくちゃ体重いっす……」
軋む体へ鞭打って座ったのはいいが、全身が鉛になってしまったかのように重く、目を擦るという簡単な動作ひとつするのにかなりのエネルギーを要すように感じた。
「あまり動くな」
「うう……くらくらする……」
強い目眩を感じて片手で顔を覆う。エティが膝の上で開いたままだった本を退かして椅子を立ち、アスカの両肩をそっとベッドへ押しやった。アスカは抵抗せずにそのまま仰向けで敷布へ沈み、顔へ遣っていた腕を下ろすと、体を取り巻く激しい倦怠感に細く長い息を吐いた。
「籽玉曰く、今のお前の魔力は元の四分の一以下だそうだ」
「よんぶんの……いち」
「それでも本来ならば問題なく動ける筈だが……魔力を自ら外に出そうとした事が殆ど無いお前の場合、体が悲鳴を上げてもおかしくないだろう、と」
エティは瞼を伏して微かに頷きながら話を聞くアスカの体へ布団を掛け直し、額にかかる髪を指先で退けてやってから椅子へ戻る。
「まだ夜半過ぎだ、このままもう一度眠れ。 明日の朝にはもう少しよくなっているだろう」
「……エティさん……は?」
エティの側の目だけ開いて相手を見遣ると、薄ぼんやりした視界の中、本を広げて視線を落とす彼の姿が伺えた。
「……ここにいる」
自分を見ずに呟く声音こそ素っ気ないものだったが、アスカはその言葉に何故だか酷く安心して少し笑むと、目を閉じるのが早いか否か、再び意識を眠りの中へと落としていった。