:: RM>>11-07




 幾度目かの寝返りをうち、掛け布の下で体を大の字に仰向けてアスカは大きく息を吐いた。明かりを落としてからなかなか寝付けずにいたせいですっかり暗闇へ慣れた目が、ごく薄い月明かりを頼りに天井の模様をぼんやりと捉える。
 ベッドに入って一日の事を振り返るのはアスカの癖であり日課だが、普段は途中でいつのまにか眠ってしまうのが殆どだ。今晩のように寝付けずにまんじりともしない夜を過ごす事は、先日のように家族の事柄で何か大きな悩みを抱いた時の他には滅多にない。
 はずなのだが。
 何度目かわからない溜め息を吐く。ここのところ暫く寝付きが悪いのだ。伯父との喧嘩は、エティに背中を押されて正面から話をつけてとうに事無きを得ている。他に不眠気味になるほどの悩みも思い当たらないというのに。

 「……何でかなぁ」

 小さなぼやきは誰に届くでもなく室内へかき消えた。ふう、と短く息を洩らす。

 「何でだろ」

 二度目の呟きは寝付きの悪さに対してではなかった。昼間籽玉に問われた答えが、自分の中でなかなか見つからない。何故敬語を使うのか。愛をぶつけたいと思ったり、放っておけないのは何故か。
 エティ本人にも問われた。何故、そこまでするのか。

 ……好きだから?

 「いやいやいや!!」

 布団を跳ね除けて勢いよく上体を起こし、自分の発した大声にはっとして口元を押さえる。一瞬頭にちらついた考えを思い切り否定するように、頬を覆う手のひらが顔面に集まった熱を感じたのを誰にでもなく誤魔化すように、ぶんぶんと激しく左右に首を振った。
 市場に出入りするようになってから、同性のカップルらしい人々をちらほら見かける事も確かにある。それがここでは普通と言われても、やはりアスカの世界では『無し』なのだ。
 男と男がどうこうはありえない。あってはいけない。十七年の人生でアスカの中に確りと根付いた常識は、覆ろうとするのを強く阻んだ。

 「……。 ……寝よ……」

 背中から倒れるようにぼすりと体をベッドに沈ませ、全ての考え事を遮断しようと目を閉じた。


 ゆっくりと、夜が更けていく。




<<>>