軽く温め直して皿に移された麻婆豆腐と小皿に盛り直した中華風サラダを前に、エティは手渡されたスプーンを握りながら、皿と向かいに座るアスカとをそれぞれじっと見つめて眉間に僅かな皺を寄せた。
期待と不安と緊張が入り混じるアスカの視線から目を逸らして、麻婆豆腐を掬って口へ運ぶ。
「……」
「…………」
もくもくと咀嚼して飲み込むまでを、アスカは固唾を呑んでじっと見守る。
「……旨い」
「ほ……ほんとですか!? ……でもあの、琅玕のを食った事あるのに……食えます……?」
「料理が初めてでこれなら、上出来じゃないのか」
促されるでもなくもう一口を掬って口に運ぶ様を見届け、アスカは張っていた気持ちごとテーブルにへなへなと上体を崩した。
「よかったぁぁあ~~……」
「……何故突然料理を作ったんだ」
「エティさんって、人が作った料理なら普通に食べるんだなってこの前思って。 なら俺が料理覚えて食事作るようになればもっとちゃんと食べてくれるようになるんじゃないかって……」
ひょっとしたら怒るかもしれない、というアスカの予測は杞憂に終わったのか、それを聞いても尚エティは何も言わずに食べ続ける。
「随分気にかけているようだが、俺は今の食事量でも身体を維持する事には支障がない」
「……それは流石にもうわかってます……余計なお世話なのも」
「……お前は何故そうまで気にかける」
不意に問われた内容が昼間籽玉から訊かれた内容と重なり、アスカはずっとエティへ向けていた視線を外してうろうろと彷徨わせた。
「なぜって……心配だからです」
「何故ここまでする……した事もない料理まで覚えようと」
「……なんでだろ……。 エティさんは俺に居場所くれたから……ですかね?」
「……尋ねられても知らん」
「ですよね……」
テーブルへと視線を落とし、頬を掻いて苦笑した。その様子をじっと見たエティは一旦スプーンを置いて、言葉を探すように迷いながら口を開く。
「……何と言えば適当かわからんが……」
アスカが顔を上げて再びエティを真っ直ぐに見ると、エティの方はついと目を逸らす。
「俺は……お前の食事を作るのは、嫌いじゃない。 だからこのままでいい……お前の気持ちは、受け取っておくが」
「……エティさん……」
「それに……俺も、意味もなく物を食べないわけじゃない。 ……だが今は理由を口にはしたくない。 わかってくれるか」
最後の一言だけは視線を戻し、アスカの瞳をしっかりと見つめてエティは問う。アスカは真っ直ぐに紅い瞳を見つめ返し、こくりと一度頷いた。
「……はい。 わかりました」
「……ありがとう」
もう一度スプーンを手に取りながら呟いたエティの言葉にアスカは目を瞠り、照れの混じった笑顔を浮かべて、いいえ、と静かに言葉を返した。