:: RM>>10-04




 翌朝、抜け穴の前。
 ほんの一時間前、ベッドに残っていたエティの香りと共に目が覚めた事を思い出し、アスカは照れ笑いを浮かべて頬を掻いた。

 「なんかすいません、エティさんのベッド占領したうえ見送りにまで来てもらっちゃって」
 「……別に特別な意味はない」
 「俺、もう大丈夫ですから」

 少しだけ腫れの残る瞼、どこか晴れやかにさえ見える笑顔を、エティは蒼い瞳で受け止めて視線を逸らす。それじゃ、と軽く挨拶して抜け穴を潜ろうとする背中へ目を戻すのと、口が開くのとはほぼ同時だった。

 「アスカ」
 「はい?」

 くるりと振り向いた黒い双眸を上目気味に覗き込んだままエティは黙り込んだ。声を掛けたのは自分からだというのに、いつもの無表情の中に戸惑いの色が混じる。きょとんと目を丸くして続きを待つアスカに、少し迷って問い掛ける。

 「次の夕飯は、何がいい」
 「エティさんの作ってくれる物なら何でも!」
 「……そうか」

 弾けるような笑顔と共に返された言葉に、エティの頬がほんの微かに緩んだ。それを目ざとく見つけたアスカが両肩を掴もうと手を伸ばすのを遮るように、真顔に戻ったエティが抜け穴を指した。

 「早く行け」
 「ハーイ……折角可愛かったのに……。 じゃあ、また」

 抜け穴を潜った向こうで軽く振り返って手を振り、アスカは元の世界へと戻っていく。


 その背中がかき消えた何もない空間を、エティは長い長い時間、見つめ続けていた。



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