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 喉でちりちりと火が燻るような痛みを覚えた。あんなに声を張り上げたのはいつぶりだろうと、霞がかかったようにぼやける頭で回顧する。 引き出される記憶はひとつもなかった。自分は大人しい部類の子供であったのは自覚しているが、泣き喚いた思い出が一つもない事には少々驚かされる。それも今はどうでもいいと、頭の隅の方へ投げ捨てた。
 明かりのない自室で、制服のまま頭から掛布を被った暗闇の中。その上から重く圧し掛かる静寂によって、息が荒くなるほど興奮しきっていた心は崖から突き落とされるように急冷され、思考は昏く深くへと沈み込んでいく。
 あんな事言うべきではなかったし、言うつもりじゃなかった。定刻通り帰ってくればよかった。そもそも、格好つけて酒など飲まなければ。
 自責の念と後悔ばかりがとめどなく押し寄せる。布団越しだというのに時計の秒針が振れる音さえ鮮明に聞こえるほど静まり返った室内に、鼻を啜る音が毎度大きく響いた。
 目尻から次々と溢れる雫を、握りしめた毛布へ押し付ける。喉奥から嗚咽が洩れかけるのがどうしようもない程情けなく思えて、飛鳥は丸めた体を更に縮こませてきつく歯を食いしばった。



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