:: RM>>09-04




 笑顔でアスカと籽玉を見守っていたシイラが思い出したようにソファを立ち、キッチンへ向かった。

 「わたしおちゃいれるねーぇ?」
 「琅玕が持ってきた茶葉がそこに……淹れ方わかるか」
 「うーろんちゃだよねーぇ? だいじょうぶだよぉ」

 聞こえてくる会話に、アスカが心持ち声量を落としてマシシに問う。

 「なあマシシ、エティさんとシイラって仲いいの?」
 「あ? あー、あいつらも付き合い長いからな」

 マシシは脚を組みながら、普段どおりよく通る声音のまま返す。

 「へぇー……。 ……あとさ、前から思ってたんだけど、エティさんって琅玕にはやけに優しくね?」
 「本人に直接訊きゃいいだろーが」

 言い難そうにもうワントーン落としたアスカの声に、マシシは面倒そうに投げ出すような声色で答えた。それに懲りずアスカは食い下がる。

 「俺だってそう思ったよ、でも何か見ようによっちゃ結構いい雰囲気じゃね? 訊きづらくてさぁ……」
 「ぼく味見してあげようっと」

 不意に籽玉が立ち上がってキッチンの方へ向かう。つられるようにアスカも腰を上げ、ローテーブルを回り込んでマシシの隣で膝を付き、低い間仕切りから覗くようにダイニング越しにキッチンを伺う。琅玕と並んでキッチンに立つエティの背中を見つめるその瞳は、さながら雨に濡れた捨て犬の様相だ。

 「あいつは聞き分けが良いからエティも信用してんだろ。 大体、あんなでっけーコブ付きで恋愛もへったくれもねーだろよ」
 「……確かに」

 琅玕とエティの間に割って入り、横から食材をつまみ食いして琅玕に宥められる籽玉を見て、アスカは素直に頷いた。
 そのままダイニングのシイラのほうへ視線を移し、魔法を使いながら手際よくお茶の準備をする様子をじっと観察しながらマシシの肩をつつく。

 「なあなあ」
 「うざってーなさっきから……次は籽玉とエティってか? 一番ありえねー組み合わせだよ」
 「それは何となくわかる。 じゃなくてさ、シイラって……男……だよな?」
 「あ? 今更それ?」

 万が一にも本人には聞こえないよう、かなり潜めた声での質問。マシシは眉間に皺を寄せてアスカを振り向いたと思うと、にやりと目を細めて笑う。

 「それこそ直接本人に訊いてみろよ」
 「……やめとく」

 間違っていれば地獄、合っていたとしてもきっと地獄。笑顔のシイラに正座で説教され続ける自身の姿が容易に想像できて、アスカの頭にそんな言葉が過ぎった。



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