「えッ!?」
土産の紅茶の二杯目を飲みながらの世間話の途中、アスカは思わず身を乗り出して会話を遮った。旅の合間の星ノ宮への滞在中、マシシは古書店の空き部屋に宿泊しているという事を聞いて、さっと青ざめ向かいのエティと隣のマシシを見比べる。
「ひょ、ひょっとして二人って恋人同士だとか」
「は」
「はぁああ!?」
「だって同性同士とか関係ないって籽玉と琅玕が言ってたしぃ……付き合い長そうだしぃ……」
眉尻を下げてぐじぐじと不明瞭に話すアスカに、エティとマシシは各々溜息を吐いた。それだけでは足らないとばかりにマシシがずるずると椅子の背凭れに沈む。
「きっしょく悪い事ゆーなよ藪から棒に……。 確かに付き合い長いけどさ、今の俺らはただの取引相手でしかねーよ。 現にオレは宿代だってちゃんと払ってんだからな」
「何だそうなんだ……。 ……え!? 今はって事は前はそういう」
「ちっげーっつのしつっけーな!! 言葉のあや!! あーウルセーったら……。 さーてと、ちゃっちゃ飯作るか」
言葉尻を耳ざとく捕らえて食い下がるアスカを荒い語気で振り払い、マシシは両腕のバングルと両手の指環を全て外し、放り込むように宙に仕舞って席を立った。腕捲りしながらキッチンに立つのをエティも椅子を降りて止める。
「いい。 アスカがいる時は俺が作る」
「え、宿代増したくねーし自分の分は自分で作るよ」
「物のついでだ、金はいい」
「そ? じゃ、作るのめんどくせーし頼むわ。 ……にしてもアンタ、野菜スープ以外も作れんだね」
袖を戻しながら椅子に座るマシシに、エティではなくアスカが答える。
「そうなんだよ!! エティさんいっつも野菜スープとか作り置きして、それも一日一杯食べるか食べないかなんだぜ!? 何も食べない日もあるし、いつか倒れるどころかほんっとどうやって生きてるのかわかんないんだよ、俺もう本当心配で」
「うるっせーなそんなん知ってんよ! 現に生きてんだからなんとかなってんだよ、見りゃわかんだろバカか」
うざったそうに言葉を遮ったマシシの口の両端を、アスカがむんずと掴んでぐにぐに左右に引き伸ばす。
「マーシーシー!! さっきから思ってたけど、おっまえ口悪いなぁ! 駄目だろ!」
「にゃにすんらよひゃめろ! っだぁもう!! 大体そんなビービー言うならてめーで作って食わせりゃいいだろが!!」
「うッ……そ、それは……」
マシシがアスカの両手を思い切り振り払った。振り払われた手の人差し指同士をちょいちょいと合わせながら視線を逸らして口篭るアスカを見て、ニヤリと笑みを浮かべる。
「……はーん? さては着火が下手くそすぎて爆発事故でも起こしかねないとか言って止められてんだろ? つか、そもそも料理自体ろくにした事ないと見た! どォだッ」
「うううっ」
「そーいや籽玉に聞いたぜ、水道爆発させて噴水にしたんだって?」
「してない! 断じてしてない! 籽玉話盛りすぎだから!!」
アスカがぶんぶんと勢い良く首を振って不名誉を否定するが、マシシは笑んだまま頬杖を付いて片手をひらひらと振る。
「どーだかなぁ? 正直オレはさっきのランプも買う前にぶっ壊すんじゃねーかってわくわくしたぜ、ぶっ壊した数だけしっかり徴収してひゃろうとにゃんらよひゃめろっつってんにゃろ!!」
「あああもおおお、余計な事ばっか言うのはこの口か!!」
「いへーっふの!!」
身を乗り出してさっきより強く口の端を引っ張るアスカに抵抗してマシシも暴れ、ガタンガタンとニ脚の椅子がけたたましく音を立てた。
背中を向けたまま、エティが小さく息を吐く。
「……同レベルだな」
「えっ、何て?」
呟きを聞き付けて、マシシの頬を抓りながらアスカがぱっと声色を明るくして振り向いた。
エティは調理の手を止めず、背中越しに二人を嗜める。
「さっきから喧しい。 二人共さっさと風呂なり入ってきたらどうだ」
「「……はあ!? 一緒に!?」」
見事な勘違いのユニゾンに、エティは包丁を持ったままの右手を顔に当ててゆるゆると頭を左右に振り、うんざりと低く呻く。
「……喧しさも二倍か……」