:: RM>>04-02




 「ただいまぁー」
 「您好エティ、お久しぶり」

 少年を一人背負って戻ってきたアスカを見てもエティは特に驚く事もなく、少年からの挨拶に視線を合わせず頷いて返した。

 「荷物が増えたな」

 と呟いて、両手の塞がったアスカの為にダイニングの扉を開ける。
 アスカは一瞬躊躇うが、少年も連れて入れという意味だと捉え、扉を開けて貰った事に短く礼を口にしてから、少年の頭をぶつけないよう屈んでドアを潜った。ふと室内に先客の姿がある事に気が付き、椅子を降りて自分のすぐ前に歩み出るその姿に目を瞠った。

 「……双子?」

 髪や瞳の色は違えど、目の前の少年と連れ帰った少年の顔のつくりはうりふたつ。背丈も同じ、服装もどこか似通っている。
 琥珀色の瞳の少年は無表情のままじっとアスカの顔を見上げた。たっぷり十数秒見つめた後、胸の前で握った右手を左手の掌で受けるように両手を組んで、深々と一礼する。

 「琅玕と申します。 ……よろしく、アスカ」

 アスカは顔を上げた琅玕の優しげな微笑に瞬きながらもついつい釣られて頭を下げる。

 「よろしく、琅玕」

 名前を呼ばれ、琅玕は擽ったそうにはにかんだ。すぐにアスカに背負われた少年に視線をずらして、元の無表情に少しだけ心配の色を加えた面持ちで短く問う。

 「体は?」
 「大丈夫、気分がよくなったから追いかけてきたんだ。 分かれ道で偶々アスカと会ってね?」

 アスカは二人の会話を聞いて少年をおぶったままだった事を思い出し、フローリングに膝を付いてしゃがんでやる。少年がくすくすと笑いながら床に足を着けた。

 「可惜、もう終わり? なかなか心地良かったのに」
 「足痛いなら無理するなよ」

 軽く掛けたアスカの言葉に、琅玕が顔に浮かんだ心配の色をより深めた。少年は相手が言葉を発するのを遮るように微笑んでふるふると首を横に振る。同じ顔によってつくられる微笑みでも随分と雰囲気が違うものだと、あまり双子というものに馴染みがないアスカは密かに感心する。
 籽玉は足の痛みが無い事を表すようにてくてくと歩いてそっくりな面差しの隣に並び、アスカに向き直る。胸の前で自分の方へ掌を向けた手を重ね合わせ、深く礼をした。顔を上げてにこりと笑う隣で、琅玕も先程と同じく両手を組み、口の端で笑む。





 「改めまして、籽玉です。 よろしくね、アスカ」
 「籽玉、な。 よろしく」

 名前を反芻され、籽玉はにっこりと笑みを深くする。

 「立ってないで座れ」
 「あ、はい」

 扉のすぐ前に立っていたアスカの背中を軽く押し退けながらエティもダイニングに入り、後ろ手に扉を閉めた。テーブルのキッチン側にアスカが座り、その向かいに琅玕と籽玉が並んで座る。

 「あ、ぼくあんまり香りのきつい紅茶はいやだよ」
 「……」

 キッチンに立って紅茶を選び取ったエティの背中に籽玉がまるで遠慮のない声を掛けた。エティは黙って瓶を戻し、別の物を手に取る。



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