:: RM>>03-01




 カウンターの椅子に腰掛けて机に突っ伏したまま、アスカは大きく口を開けて欠伸した。目元をごしごしと擦り、その腕をぱたりと机に戻す。

 退屈だ。

 顔を横に向ければ、魔法の練習用に貸し与えられた本。アルバイトを初めて三日目になるが、今まで何度試みても張り付いたように机から離れたがらない本がいい加減憎らしく思えて、意味などないとわかっていつつもついつい睨んでしまう。
 一日目の午後に、この世界に於ける通貨の単位と流通する硬貨の種類、それと時計の読み方を教わり、早くも二日目からレジ要員としてカウンターに座らされているのはいいのだが。

 お客さん、少なすぎるよなぁ。

 ぽつりぽつりと訪れる客はほぼ全員が本を数冊買って帰るが、客の数自体が少なすぎる。今のところレジ打ちの仕事しか任されていないため、アスカは殆どの時間をただぼんやりと退屈に過ごすほかない。
 二日目の夜には、折角だから暇な時間にこの世界の字の勉強をしたいとエティに持ち掛けたのだが、教本すら読めないアスカには無理だろうと断られてしまった。付きっ切りで指導できるならまだしも、と。アスカはエティの家庭教師姿を想像して思わずにやけてしまったのだが、書架で仕事をする必要があるから無理だと妄想ごとばっさり切られ。
 時折訪れる買い物客に、最終ページ隅に鉛筆で書かれた値段で本を売ることしかできない。もう一つ、客が既に鉛筆書きのある本を持ち込んできた場合には指示された割合の金額で本を買い取る事も許可されたのだが、今のところ買取の客は本を購入していく客より少ない。
 エティから聞いた話から察するに、アスカの世界とこの世界の物の相場に大きな違いはない。古書店の本はアスカの世界のそれより少し割高に思えたが、それでも日々の売り上げがこの調子なら、この大きな店の維持など到底できないであろうことはいち高校生のアスカにも察する事が出来る。

 経営とかどうなってんだろう……。

 流石に無遠慮すぎるだろうと直接訊けずにいる心配事をもやもやと思い浮かべながら、机に頬を付けたまま練習用の本へ手を翳す。置かれた場所から僅かにずれるだけで、持ち上がることは無い。
 本をもうひと睨みして、卓上の小さな時計を見遣る。たどたどしく針を読むと、エティに指示されていた時間を数分過ぎている事に気が付いた。

 「エティさーん! お昼ですー!!」

 体を起こし、エティしかいない店内へ向かって遠慮なく声を張り上げた。耳を澄ましても返事は無く、アスカは椅子から立ち上がって店内へ向かう。



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