:: RM>>02-06




 「……今度の「また」は、随分と直ぐだったな」

 穴から顔を出したアスカに耳触りの良い声がかかる。藪を抜けて顔を上げ、暗闇に慣れぬ目で声の主を捉えて、頬を掻きながら照れ笑う。

 「あはは……戻って来たくなっちゃって。 なんか居心地いいんだ、ここ」
 「時間は」
 「やっぱり夕方のまま、十分ちょっとしか経ってなかったです。 あー……すいません、俺、何か考え無しに戻って来て……もう遅いのに、迷惑かけるような事……」
 「……別に。 居たければ泊まっていけばいいだろう、誰も迷惑はしない」
 「え? いいの?」
 「……好きにしろ」

 エティは呟いて、アスカに背を向けて店の方へ歩き出す。

 「はいっ!」

 はじけるような笑顔を浮かべて小走りで背中に追いつき、隣に並んだ。ちらりとエティの無表情を盗み見るとくすぐったさがこみ上げてきて、にやにやと笑顔を浮かべたままもう一度軽く頬を掻く。



 当然ながらトイレも浴室のシャワーも魔力で稼動するものだったが、シャワー中に湯と水を間違えて思いきり水をかぶった程度で、他には難もなく使いこなすことができた。貸し出されたエティの物らしい寝巻きのサイズが小さく、手首足首が余計に露出した少々滑稽な姿になんともいえない表情を向けられはしたが。
 階段を上った二階、廊下の手前から二番目の部屋に案内される。ベッドと机と棚だけ置かれたその部屋は客室のひとつらしく、長く使われていないという言葉通り少しだけ埃の匂いがしたが、旅先でホテルにでも泊まるようだと、アスカの胸を高鳴らすには十分だった。

 一人になった部屋で、ぼすりとベッドに飛び込んでみる。アスカの入浴中に簡単に掃除してくれたらしく、シーツからは太陽の匂いがした。うつぶせのままきょろきょろと室内を伺う。机も棚も壁際のランプも、アンティークな洋館さながらだ。ベッドのフレームにも細かい装飾が入っていて、マットレスの跳ね返り具合からしても、普段アスカが使っているパイプベッドとはまるで別物だ。

 もしも朝起きて、時間の流れが思ったとおりじゃなくて、向こうの世界で行方不明みたいになってたら、大事だな。

 一体どうして両世界間の時間の流れに矛盾があるのかもわからないうえ、二回しか確かめていないのだ。普段の素行は至って真面目。一日無断外泊しただけで、家族はきっとアスカを心配するだろう。ほんの少しの不安と恐怖心が、この世界に来て初めて首をもたげる。
 時間の計算を頭の中でもう一度おさらいする。ああでもないこうでもないと考えているうちに、アスカの意識はとろとろとベッドへ沈み込んでいった。



<<>>