:: RM>>02-05




 暫し待ってテーブルに並べられた、クリームシチューと鶏肉の香草焼きとサラダ、籠に盛られたパン。アスカは目を輝かせ、いただきます、と顔の前で手を合わせる。手始めにシチューにスプーンを付けて、アスカは大げさに見えるほど頬を紅潮させた。そのままがっついて食べるのを、落ち着け、と一言窘められる。

 「すっげえ美味い! エティさんって料理上手なんすね!!」
 「レシピ本の内容をそのまま作っただけだ」
 「嘘ぉ? 俺、今なら料理番組のレポーターになれますよ! ……あれ、エティさんは食わないの?」
 「味見で腹いっぱいだ」

 自分の分は用意せず頬杖を付いてアスカの食いっぷりを眺めているだけのエティに気付いて、アスカは急に深刻そうな顔をしてテーブルにスプーンを置いた。言いづらそうに目を泳がせて、たっぷりと間を空けてから意を決したように口を開く。

 「……エティさん、もしかしてあんまりお金ないんじゃ」
 「……は」

 意表を突かれたエティが眉を顰めながらアスカの瞳を見て、本日二度目、視線が絡む。

 「だってこんだけ広いのにお客さん全然っぽいし! ひょっとして無理して作ってくれたんじゃないかっておもっ痛って」

 エティがテーブル端に除けていた本を掴んでアスカ目掛けて投げた。表紙がばしんと額を打って、エティの手に引き戻される。

 「元々小食なだけだ……生活にも困ってない。 要らん勘繰りはよせ」
 「スミマセン……」
 「さっさと食べろ。 もうあと二十分で九時だ」
 「え、マジでっ」

 読めない時計を反射的に見てスプーンを取り、急いで皿の中身をかき込む。
 香草焼きとパン三個、シチューはお代わりして三皿。あっという間に平らげて、ごちそうさまと手を合わせた。まだ鍋の中に残るシチューがとても惜しかったが、流石にこれ以上は食べられないと渋々諦める。



 端末のライト機能を呼び出してささやかに足元を照らしながら、店の裏手に回る。見送りなのか、特に何を言うでもなく付いて来たエティを穴の前で振り返った。

 「じゃ、俺今日はこれで……夕飯ごちそうさまでした、ほんっと美味かったです。 ……また来てもいい?」
 「好きにしろ」
 「へへ、ありがとうございます。 そんじゃ」

 穴を潜って藪越しにエティを振り向いて、名残惜しさを跳ね除けるように背中を向けて歩き出す。風景の切り替わりを目に捉えようと強く意識して歩を進めてみたが、やはり、ふと気が付くととっぷり暮れていたはずの辺りがまだ明るい夕方の風景に変わっていた。
 端末によれば、時刻は午後五時十二分。
 路地を抜け切らないまま足が止まる。少しだけ迷って、くるりと身体を翻した。こんなにも自分の気持ちに正直な行動ばかりとるのは一体いつぶりだろうかと、頭の隅で考えながら。



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